N先生

「卒業式で涙を見せたら教師は一生やめられない」、N先生の言葉は今も鮮明に脳裏に蘇る。先輩でありかつての同僚 でもあったN先生が先日現職校長のまま亡くなった。もっと早く病院に行ってくれていたら、と誰もが思う。責任感が強い先生だっただけに、体の不調を感じつ つも現場を離れがたかったのだろう。N先生らしい。

N先生と同じ中学に勤務していたのはもう15年以上も前のことだ。明るく、渋く、話をさせると誰もが納得した。ダンディで格好いい先生だった。決して威圧 感はないのだが、カリスマ性があった。こんな先生になりたい、と思った。きっと内面の心豊かさと優しさが人の心を惹きつけたのだろう。名字ではなく、皆が ファーストネームで呼んだ。

N先生は生徒の目線に立ち、決して安易な妥協をせず、生徒とじっくりと対話することの重要性を説いた。そして教育は生徒との信頼関係を基礎に成立すること を自らの姿勢でもって若い教師に教えた。当時もう教師なんてやめようと思っていた私にN先生は光明であった。

15日の告別式には多彩な人々がN先生に別れと感謝の言葉を述べるために集まった。NHKのプロジェクトXでは取り上げられることはないだろうが、口丹波 の人々にとってはそれに値する偉大な人物であった。N先生を見送りながら、「教師は死んでもその教えは死なない」、とあらためて思った。それは生徒だけに でなく我々教育に携わる人間についても言えることだ。N先生の教えは、あのさわやかな笑顔と共に忘れられることはないだろう。

(2003年2月25日京都新聞朝刊・声の欄に掲載)

(2003. 2. 25)

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