若き日に薔薇を摘め

「薔薇を摘むと、棘(とげ)、がささるから血が出る。でも若い人はすぐに治るのだから怖がらずに何にでも手をだせ。たくさん経験をしてたくさん苦しんだ方が死 ぬときに、ああよく生きたと思えるでしょう。逃げていたんじゃ、貧相な人生しか送れませんわよ」。これは僧侶であり作家である、瀬戸内寂聴さんが語った言 葉として先日の朝日新聞に掲載されていました。「若き日に薔薇を摘め」。いいことばです。

いまみなさんは、まさにこの若き日を生きていらっしゃいます。そしてみなさんに比べれば多少年は取りましたが、私もまた、この若き日を生きているつもりです。

この大学という場所はそのような若き情熱の溢れる場所であります。

さ まざまな行事や出来事のあったこの秋学期及び2004年度の授業も今日で終了となります。あとは定期テストを残すのみとなり、1-3回生のみなさんは楽し みにしていらっしゃる春休みが待っているわけです。特に3回生のみなさんにとっては、これから就職活動、教員採用試験の勉強またはさらに大学院受験など、 これからが今後のみなさんの人生を占う重要な時期となります。一方、4回生のみなさんにとってはこの新島記念講堂における礼拝は今日が最後となります。大 学の卒業、卒業式が視野に入ってきました。時間の経つのは経ってしまうと早いものです。

今日のお話の主人公はこの大学のあるゼミの4回生達です。

か つて私が大学生であったころのように全員に課されるわけではありませんが、卒業論文に取り組んでいる4回生はこの大学でも数多くいます。日本語日本文学科 のように全員が書かなければいけない学科もあります。そのある学科のあるゼミでも23名の4回生が卒業論文という大きなプロジェクトに取り組みました。

こ の卒業論文で最も困難を極めるのが、「何について書くか?」卒論のテーマを決定することです。なぜ、大変かと言えば、それはひとりひとり顔や性格が違うよ うに、各自が興味を持っていることが異なるからです。これはその本人にしか決められないことです。これは、よく言うのですが、卒論の書き方は教えられて も、何について卒論を書くのか?これだけは教えることはできません。

卒論 のテーマは、別名、 研究テーマ、問題の所在とか、解決すべき問題、私の問題意識などと表現されますが、英語にはこれをあらわすいい言葉があります。私は大学院生の2回生の時 に、現在はハワイ大学で応用言語学を教えている、J.D. Brown博士から直接教えてもらいはじめて知りました。Research Questionsです。Research Question、私の大学院時代に学んだなかで最も重要な概念の一つです。世の中には多くの疑問があります。どうして空は青いの?どうして、人は人を好 きになるの?どれも大切な疑問、 Questionです。その中でも自分の研究分野に関して抱いている疑問、解決すべき疑問が、Research Questionです。かつて算数教育の研究をしていた私の大学時代の Research Questionは「分数のわり算をするときにはどうして分子と分母をひっくり返してかけるの?」というものでした。実にくだらなく、実に素晴らしい Research Questionです。他人から見たらくだらなく思えるでしょう。でも、私にはこの礼拝の15分間では語りきれなくらい、この Research Questionが重要である理由がありました。

こ のあるゼミの学生23名の卒論にとっても、この Research Questionを発見すること、確立することが最も困難を極めた作業でした。1週間に1-2本の英語論文をゼミで読み討議し、担当教員からは「そのテー マではまだまだ広すぎる、感想文にしかならない」と極評され、スタディーグループでも互いの Research Questionを議論しあいました。一体どれだけの時間をこの Research Questionを発見するために費やしたことでしょう。就職活動、教育実習、アルバイト、クラブ、サークルなどに時間をとられながらも 7月には、47名の他のゼミのメンバーとポスターセッションを開き、自分の Research Questionを発表する段階にまでたどり着きました。相談にのっていたゼミの担当教員も各自の Research Questionが明確になるについて、目を輝かせ自信を持って話ができるようになっていく23名がまぶしく感じられるほどでした。ここで卒論のテーマと して掲げられた問いはそれぞれの23名のこれまでの人生、または今後の人生に関わる問いであるだけに もうこの時点でこの卒論プロジェクトは半分成功したようなものでした。

こ のあるゼミでは、卒論とは直接関係がないように思えることにも果敢にチャレンジしてきました。時に無謀と思えることにもトライしてきました。10月のス ポーツフェスティバルへの模擬店の出店、競技への参加、春、夏、そしてこれから行われる冬の年3回の合宿。そしてそのうちの一つは他のゼミとの合同合宿で した。合宿委員はプログラム内容に苦心していました。ハンガリーの大学生のゲストスピーカーとしてのゼミへの参加、3-4回生の間での学習サポート、ゼミ ホームページの作成、ゼミTシャツ、スウェット、ゼミベストCDの制作、台風被害にあった友人へのサポート、卒論に向けて11月後半からほぼ毎週土曜日の ミニ合宿、名物になった合宿の際のローソンへの買出し(本当にいっぱい買いました)、体育館での3-4回生合同のスポーツ大会。総計50回を越えるゼミ運 営委員会。運営委員は本当に縁の下の力持ちとしてゼミを支えてくれました。そして教員に頼らないゼミの自主運営、と数え上げるとキリのないくらい数多くの 小プロジェクトがありました。そのなかには、笑いがありました。真剣な討議がありました。大粒のなみだもありました。ゼミが危機に瀕したこともありまし た。決して平坦な道のりではなく、決してすべてが成功したわけではなかったけれど、彼女たち23名はそれらのプロジェクトを通して2つの大きな財産を得た と思っています。

ひとつは、「なんでもやってみよう」とするチャレンジ、 いやパイオニア精神です。イラクで殺害された香田さんの例を引き合いに出すまでもなく、時にこれは状況を誤ると悲劇を招くこともあります。この境目には微 妙なものがありますが、そのような危険性を承知しながらも私は、果敢にチャレンジする気持ちは生きていく上でとても重要であると思います。この大学を創立 された新島襄先生も当時の国禁を犯して、ワイルドローバー号にてアメリカボストンに渡られました。新島先生21才の時、ちょうど現在のみなさんと同じくら いの年の頃であります。当時日本に根付いていなかったキリスト教主義教育を建学の精神として掲げるこの同志社は、いわばそのパイオニア精神によって支えら れている大学といっても過言ではないと思います。この同志社でさまざまな活動に時間を費やし、情熱を傾けられたこのゼミのみなさんのパイオニア精神はその 意味でも大いに賞賛されるべきことだと思います。そしてこのパイオニア精神の重要性を認識すること、これはこの大学で教え、学ぶものにとってとても重要な ことです。

もう ひとつは、グループによる学習や、互いの生の意見がぶつかりある中で、友情が培われたことです。友情というと古くさい、何か青臭いもののように聞こえるか もしれませんが、友情そして友人こそがこの大学生活の中で得るべき最も重要なものの一つだと私は考えています。シラバスには コースの目的として書かれてありませんが、共に同じ教室で1年、または2年学ぶ中で是非ともこの友情をコースの参加者の中に芽生えさせたいものです。この ゼミの中にも多くの友情が芽生えたと思います。ただ、友情は目に見えません。目に見えないだけに、友情を信じない人には友情が芽生えていることに気づくこ とがないのです。サンテクジュペリは、『星の王子様』という本のなかで「本当に大切なものは目に見えない」、と言っていますが、この大学を卒業した後も、 23名全員が目には見えないこの大切な友情を大切にしていただきたいと思っています。

卒 業論文がひとつのプロジェクトとすると、大学の4年間もそしてゼミもまたひとつのプロジェクトです。プロジェクトにはかならず終わりがあります。これが何 かの努力目標や取り組みとの大きな違いです。23名のあるゼミのプロジェクトももうすぐピリオドが打たれる時が来ようとしています。

23名のあるゼミでも、卒業論文を全員が提出をし、そしてポスターセッションの時と同様に明日25日に総勢70名で「第二回卒業論文発表会」でそのプロジェクトを完成させようとしています。

私 は、彼女たち23名のこれまでの情熱溢れる活動をみながら、これこそ「青春」ということばがピッタリ当てはまるのではないかと思っていました。図らずもそ のゼミの卒論キャッチフレーズは、今日のお話のタイトルにもなっている「青春謳歌」であります。これは青春謳歌とかいて青春バンザイと読むと彼女たちが決 めました。青春バンザイ、実にすがすがしく若者らしい、そしてこの同志社にピッタリの言葉だと思います。

新 島先生の永眠記念日、すなわち命日はちょうど昨日23日でした。先生は、遺言の中で、「同志社においては__不羈(てきとうふき)なる書生=信念と独立心 にとみ才気があって常軌では律しがたい学生を、圧迫することなく、その本性に従いこれを順導し以て天下の人物を養成すべき事」と述べておられます。

まさに、パイオニア精神をもってさまざまな可能性にチャレンジする学生こそこの同志社を創建された新島先生の意思にあうことなのではないでしょうか。

い い先輩のもとにいい後輩が育つ。これはそのゼミのある4回生が掲示板に書き込んだ言葉です。正鵠を射た言葉です。さらに付け足すなら、新島襄先生の建学の 精神が息づくこの伝統のある大学だからこそ素晴らしい若者が育つと。今後、このあるゼミの23名の卒業していく先輩の姿をみながらこのようなすばらしい精 神が、今後この大学で学ぶ後輩に受け継がれ、さらに確固としたものとして根付くことを祈ってやみません。

若き日に薔薇を摘め

「大学時代怖がらずに何にでも手をだしてみよう。たくさん経験をしてたくさん苦しんだ方が大学を卒業するときに、ああよいい大学時代だったと思えるでしょう。逃げていたんじゃ、貧相な大学生活しか送れません」。

若き日に薔薇を摘め

青春バンザイ、同志社バンザイ、2004年度バンザイ 、そして青春バンザイ。

(2005年1月24日、新島記念講堂における2004年度最終礼拝より)

(2005. 1. 24)

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