コロンブスの卵たち

四月のある日、英語英文学科のあるゼミのお話です。4年生のそのゼミでは、卒業研究のテーマを見つけようと、いろんな議論をしていました。リサーチクエスチョン (Research Question)という言葉がありますが、問題設定をすることはとても難しいことです。きっと現在、日本のまたは世界の大学4年生は、自分たちの卒業研究のテーマを何にしようかと悩んでいる時期ではないかと思います。例えば、有名な言語学者であるマサチューセッツ工科大学教授ノーム・チョムスキーのリサーチクエスチョンは「どうして人は教えられなくても、母語を話すことができるのか」です。至極当たり前のようなクエスチョンなのですが、その「問い」自体を見つけることは実はとても難しいことです。

その日のゼミでは、「どうしたらそのような新たな問いの発見が出来るのか」という話をしていました。ゼミ担当者である私は期することがありまして、朝自宅の冷蔵庫から生卵をこっそりとゼミに持って行きました。生ですので、どこかで割れないかと少し冷や冷やしましたが、4講時目無事に教室へ持って行けました。

私はおもむろにポケットからその生卵を取り出して、ゼミメンバーに「どうしたらこの卵を立てることができると思いますか?」と問いかけました。

みなさんは、今日のタイトルになっている「コロンブスの卵」という話を聞いたことがあるでしょう。アメリカ大陸を発見したコロンブスが「どうしたら、卵が立つのか?」と問いかけると、聴衆は「そんなのは無理だ」と一笑に付します。しかし、コロンブスは「それは簡単」と言い放ち、卵のカドをコンコンと叩いて、くぼみを付けて立てたという話です。私は、その話は知っていたのですが、実際やったことがなかったので、「やってみよう」と、ゼミでその話をしながらやってみようと思ったのです。

ゼミのメンバーはキラキラした眼を輝かせて私の話を聞いていましたが、リナさんという方が、「私がやってみます」と前に出て卵をこんこんとたたきはじめました。感動しましたねえ。コロンブスはきっと、コンコンと見えるようなくぼみをつけて立てたと思うのですが、リナさんはほんの少しだけ、くぼみをつけるというか、角を取って立てました。傍から見ると完全な卵と区別がつかないくらい、きちんと机の上に立っていました。「コロンブスの卵」の逸話は本当だったのですね。ゼミメンバーも予想以上にびっくりしていたようでした。やっぱり、実際に、些細なことでもやってみると意外な発見がある、ということはあるのですね。

実際、ほんの少しの違いなんですが、ちょっとやってみると全然違う世界が広がるということは、卒業研究やリサーチクエスチョン以外にも様々なところに存在します。そして、そのコロンブスの卵的なおもしろい発想、おもしろい取り組みというのは実は同志社女子大学のあらゆるところで行われています。今日はそのような、おもしろい取り組みを3つ紹介したいと思います。

一番目の話。2月のある日、英語英文学科4年生の方が「今年、教員採用試験を受けるのだが、どうしよう。」と話をしていました。大抵おもしろい話というのはディスカッションの中で生まれてくることが多いのですが、「どうしたらいいかな、採用試験難しいな」という話をしていると、ある人が「みんなで集まって勉強したらいいやん」と、単純な発想なんですがそんなことを言いました。それはおもしろいということで、話はとんとん拍子にまとまりまして「教員採用試験本気組」という変わった名前のグループが出来上がり、2月から教員採用試験に向けて勉強しています。人数が増えたり、減ったりするということはありますが、3年生も含めて約10名の学生が教員採用試験に向けて、週一回くらいのペースで集まったり、または春休みなど集まれないときはインターネットなどを使いながら、勉強しています。私もある程度、効果はあるだろうなと思っていたのですが実際にやってみると、効果絶大です。勉強そのものというよりはむしろお互いが刺激しあい発奮し、意欲が向上しているように思います。そのような参加者の気持ちの変化というものが見えて、おもしろい気がします。現在では、金曜日の5時間目に知徳館C271の部屋に集まって、最終の専門科目、英語の勉強をしていますが、この本気組の取り組みもある意味でちょっとした話から「コロンブスの卵的」に広がってきた大きな取り組みなのかもしれません。

二番目の話。今日、この場所に西村仁志先生も来ていらっしゃいますが、リトリートでも活躍された三田果菜さんという方から、3日ほど前にお手紙をいただきました。彼女はリトリートや英語英文学科のさまざまな行事で活躍されて、卒業記念パーティーの実行委員長もされていました。彼女は現在、同志社大学大学院総合政策科学研究科ソーシャル・イノベーション研究コースという難しい名前の学科で勉強されていますが、手紙を見てびっくりしました。ネイルアートと町屋をくっつけて新たなイベントを立ち上げ、しかもそれがAll Aboutというインターネットの有名なサイトで紹介されて、記事になりインタビューされたので、ぜひ見てほしいというお手紙でした。さっそくそのページを見ると、従来の発想とは全く違う新たな大学院での学びといいますか、研究の姿というものを見せていただき、すごいなと思いました。しかし、すごいなと思う一方で、そのきっかけというのはほんのちょっとした何か発想の転換だとか、こんなことしたらおもしろいんじゃないかという西村先生やゼミ生とのディスカッションで起きてきたのではないかと思います。結果としては非常に素晴らしいものですが、出始めというのはそういうものです。

三番目の話。6月11日に英語英文学科では、生協とタイアップをして辞書のワークショップをしようということになりました。電子辞書を生協でたくさん売っているが、本当の使い方を分かっているのだろうかという話を、生協の方と話をしたのがきっかけです。その日、なんとかならないかなと話をしていたのですが、ひょんなことからワークショップをしたらいいんじゃないか。だったら、メーカーのカシオにも声をかけて一緒にやろうと、とんとん拍子に進みまして、実際にカシオ電算機株式会社後援という形で、電子辞書をどのようにして英語学習に使うのかというワークショップをすることに発展しました。

これらは、結果としては、うまく行っているようですが、始まりというのはほんのちょっとしたきっかけであり、コロンブスが卵の角をコンコンと叩いたような、そういうところから全てが起きているような気がします。今、聞いていらっしゃるみなさんは、そんな当たり前ではないか。そんなことやっても仕方がないじゃないかと思われるかもしれませんが、最初のやってみるかどうかの小さな違いこそが後々大きな違いを生んでくるというものではないかと思っています。

この、コロンブスの卵というのは、本当か嘘か、実は後から作ったのではないかという話もあります。コロンブスはみなさんご存知のように、アメリカ大陸を発見した(いやコロンブスがネイティブアメリカンに発見されたという見方もあるが)のですが、ある人が「そんなん、西に行ったら必ず見つかるよ。ヨーロッパから西へ、西へ行けば、アメリカがあると。誰だって出来るよ。」と言いました。するとコロンブスは「でもその誰でもできる簡単なことをみなさんは思いつかなかったじゃないか、いや思いついていてもしなかったではないか。じゃあ試しにこの卵を立ててごらん」と言ったそうです。世の中というのはある意味では当たり前、やってみたら誰でもできることが溢れています。みなさんの研究、私の研究を含めて、全て当たり前のことかもしれません。ただ、その当たり前ことを不思議に思って、実際にやってみるかどうか。そこが大きな分かれ目ではないかという気がします。

その日のゼミは、英文科のゼミなので英語で “A little difference makes a big difference”、すなわち、小さな違いが後々大きな違いを生むという言葉で締めくくりました。私も40数年間生きてきて、このほんのちょっとした違いというのが、人生において大きな変化を生むということを実感しています。

今、そのゼミでは、大学一、日本一といわずに世界一のゼミを目指そうということであらゆる取り組み、一見しょうもないと言われるようなものも含めてやろうとしています。私は、そのような一見当たり前、一見しょうもない取り組みの中から必ず、すばらしいもの、後から考えるとすごいといわれるような発見や結果が生まれると信じています。世界一のゼミを目指そうという気持ちでみんながやっている限り、必ず世界一のゼミになれると私は信じています。また、この大学においても日本一といわずに、世界一の大学になろうとみなさんが思って、いろんなことに取り組み、参加していくと必ず、世界一の大学になれるのではないかと思います。

今日のタイトルは「コロンブスの卵たち」になっています。実は、卵はたくさんあると思います。最初は小さな卵ですが、みなさんが一緒に考えてディスカッションし、試行錯誤していく中で本当に大きな卵になっていくと思います。私も含めて一緒にコロンブスの卵を見つけたいと思っています。

(2008年5月14日、京田辺キャンパス 新島記念講堂、5月26日 今出川栄光館にて奨励)

(2008. 5. 14)

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